◇火花の如く風のように・崔承喜誕生100周年記念展に寄せて◇

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火花の如く風のように・崔承喜誕生100周年記念展に寄せて
光州市立美術館名誉館長 河正雄


世界の文化芸術人から賛美賞讃され「半島の舞姫」と称された舞踊家崔承喜女史の生涯は、朝鮮と日本の歴史に翻弄された悲劇の、そして伝説の舞姫である。崔承喜(1911年11月24日〜1968年8月8日)は朝鮮が生んだ世界舞踊史上に咲いた唯一無二の華であり、東洋の心を舞踊で表現した革新的にしてユニークな天才舞踊家であった。

今年は崔承喜生誕100年を記念して女史縁りの様々なイベントが国際各都市で計画されている。光州市立美術館所蔵河正雄コレクション特別企画「火花の如く風のように・崔承喜誕生100周年記念展」(会期2011年4月7日〜6月19日)を開催する事となった。過酷であった韓日の歴史の狭間をどの様にして世界に認識されるまで芸術の境地を開拓したか、新しい芸術とは何か追及していった女史の足跡はドラマティックであり、多くの謎に包まれている。伝統的、民族的舞踊とモダンダンスをミックスした創作舞踊を発表した世紀の舞踊家の記録写真(35mmのポジとネガ)を、崔承喜研究家鄭炳皓先生が収集したものを1999年、私はコレクションした。

これらの記録写真は70〜80年前のもので当時の女史を記録した数少ない貴重なものである。このフィルムを印画紙にプリントして作品化、光州市立美術館に寄贈した。そして「舞姫・崔承喜写真展(会期2002年8月1日〜10月20日)を開催した。

この展示を見た東京都庭園美術館学芸課長横江文憲(Yokoe Fuminori)氏はこう評論した。
「展覧会の会場に足を踏み入れて圧倒された。崔承喜の肉体が宙を舞い、その表現力の容易でない事を瞬間に感得する事が出来た。彼女の均整のとれた肉体、そこから溢れ出る躍動的なリズムは、見る者を彼女の舞踏の世界へと誘う。

1935年頃、崔承喜の人気は絶頂にあり、恩師石井漠は「彼女の一挙手一投足は、通常の人間の2倍の効果を上げる事が出来る。」と言い、川端康成は「他の誰を日本一というよりも崔承喜を日本一といいやすい。第一に立派な身体である。彼女の踊りの大きさである。力である。それに踊り盛りの年齢である。また彼女一人に著しい民族の匂いである。」と書いている。

文字だけでは、想像する事は出来ても実感として伝わってこない。真実は、それを映像として如実に提示する事が出来る。崔承喜の存在の重要さは、その事よりも遥かに高い次元にあり、正に波乱万丈な人生を歩んだ事を教えてくれた。」

2003年、北朝鮮で名誉回復した女史は東アジアで再評価が進み、内外に反響を呼んだ事は周知の事である。

崔承喜著「朝鮮民族舞踊基本」(1958年平壌朝鮮芸術出版社刊)に記された文から女史の人格を窺う事が出来る。

「我が朝鮮舞踊芸術も今日、世界舞踊芸術の最高峰に立つ事の出来る栄光を持つ事になったと私は思います。我々の先祖が残してくれた美しい舞踊芸術を受け継ぎ、世界舞踊芸術で価値あるものを広く受け入れ、新しいものを創造する事で我々は朝鮮舞踊芸術の新時代を開く事が出来ると私は見ています。
ここで発表する舞踊基本は、私が三十余年の間、舞踊生活をしながら我々の舞踊で失われたものを探し出し、弱いものは強くし、ないものは想像することで我が朝鮮舞踊芸術の復興をもたらして見ようと念願し、創作したものです。

誇り高い我が人民は、私がこの基本を作るにあたっても、立派な教師であり、また世界人民は立派な幇助者でありました。

私は我が国の津々浦々と、全世界数十カ国を回り、広大な人民達の中で無尽蔵な舞踊の宝箱を見、私はそれを思い切り学ぶ事が出来たからです。

この本で発表される舞踊基本が、我が国舞踊芸術のより輝かしい未来のため、さらには世界舞踊芸術の大きな発展と多様性の為に少しでも寄与するなら我々にとって大きな幸せとなるでしょう。」

両班的高貴なる自尊心、天才的な文学、音楽の天恵が光る。芸術至上主義者政治との芸術分離論者、東洋舞踊論者としての強固な思想が根底にある。韓国舞踊の基本動作を作定し韓国の近代舞踊と現代舞踊を繋ぎ朝鮮の伝統にこだわらない理想と方法によって新しい舞踊芸術を創造確立した根拠が、この書に良く表されている。

艶麗なる舞踊の影には血の滲む練成と精進がある。崔承喜の舞踊には喜びの中にも一抹の哀愁が漂っている。そこには朝鮮民族の匂いと生活感情が表れている。古きものを新しくして弱まったものを強め、滅びたものを甦らせ、東洋の大きな民族性を一層誇らしく生き生きとした息吹を誇示している。

芸術はイデオロギーを超える。崔承喜は世界的な芸術家である事を再認識する事が我々にとって有意義なことである。崔承喜の世界同胞主義を理解し、植民地時代の苦しい時代を生きた朝鮮人の自尊心を高めてくれた女史を今日的に再評価すべきである。

崔承喜の芸術活動の足跡と女史が生きた時代と民族史を知る事は我々にとって重要な事である。

崔承喜の芸術には未来に継承して行かねばならない民族的な精神と指標がある。在日に生きる私の指標は歳月に風化せずに超える女史の自尊心と矜持が憧憬としてあったからだ。

韓日併合から101年、省察と内省、回顧するこの記念展が女史の足跡の研究と顕彰を促進させて、福音をもたらす事を祈念して止まない。


2011.5.7

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