◇金浦空港の珍事◇

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それにつけても、忘れがたい珍事がある。
数々の思い出を残したわらび座光州ビエンナーレ記念公演。充実感と明日への希望を抱いて光州空港を発ち、金浦空港国内線ゲイトで私はわらび座の皆さんと別れた。余韻を残して。離れがたい思いで。
 一人自分の手荷物を引き取るために回転台で待っていたが、なかなか出てこない。そのうちに「WARABIZA」と表示された大きな舞台道具の梱包荷が出てきた。四十二個もである。ゆうに四トン積みトラックに一杯分の量である。
 アレレ! おかしいなあ? この荷物は貨物便で国際線に直行して成田で引き取る荷物のはずなのに、なぜここに出てくるのだろうか? 考えあぐねて見ていると、職員が近付いてきて言った。
「お客さん、この荷物はあなたのではありませんか。引換券を下さい。」
私は事態の意味に気が付いて、必死になって訴えた。
「この荷物は、わらび座が成田行として光州空港から積み込んだもので、引換券はわらび座の方がもって国際線の方に移動中だ。私はたまたまこの場に居合わせただけで、もちろん引換券はもっていない。とにかく早く処置をしてほしい。」
 たまたまこの場に居合わせたために、思いもかけないトラブルに巻き込まれることになった。とにかくそれからが大変なことになった。
 時間は一時間そこそこしかないのである。ことの顛末が理解出来ぬ職員は、連絡のため光州空港に電話をしたが話しがかみあわない。そうこうしているうちに時間はあと三〇分しかなくなってしまった。
「この荷物は、二日後に北海道での公演に使う舞台道具である。もし今日この荷物が金浦止まりになってしまったら、エライ問題になる。私が全責任を取るから言う通りこの荷を国際線に運んで成田行の便に積み込んで下さい。」
 火事場の馬鹿力ではないけれども、それからというものは目に物を言わせぬ超法規の作業となった。国内線から国際線第二ターミナルへ荷物を運び、書類もサインも何もなしに荷を積み終えた時、飛行機の出発十五分前であった。まさに奇跡としか言いようがない。
「アレレ、河さん、なぜここに?」
 国内線で別れた河さんに国際線で再び会ったのだから、ことの真相がわからないわらび座の皆さん、一様にキョトーン。
「時間がありません。サア、荷物は積み終わりましたから急いで飛行機に乗って下さい。」
虫のおさまらない私は航空会社へ抗議に行った。職員はアッサリしたもの。別に驚いた様子もなく、私に謝るわけでもなく、怒っている私をただ不思議そうに見ているだけ。あしらわれているような気持ちになって、私はますます頭に血が昇るが、相手は何くわぬ様子。

「お客さん、そんなに怒っても、こんなトラブルはしょっちゅうあることで別に驚くことではないのですよ。」

このひとことで一辺に冷めてしまった。いったいこのことがらは何なのだろうかと、グルグル廻る頭を整理できず、落着いて自分を取り戻すのに数日かかった。いやはや、名誉団長にふさわしい仕事をたっぷりやらせてもらったものだと一人苦笑した。

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